朝、一悶着した後。
天使は唐突にぽんと手を打つと私に向き直る。

「そういえば今日は夜は居ませんので。心置きなく一人の時間を楽しんで下さい」

唐突に言われた言葉に一体何をしに行くのかと好奇心で問うと天使はあっさりと答えた。

「他の魂を狩りに行くんですよ。今日、一件だけ別件の仕事が入ってしまったので」






天使を飼い慣らす方法

episode3 不機嫌な天使の心







真っ暗な闇の中に月だけが眩く光輝き二人を照らしていた。
二人というのは言うまでもなく自分とである。
朝のの言葉について行きたいと告げてみればあっさりとOKがでたのだ。

「それにしても人の命を狩るなんて大して人殺しと変わりませんから楽しくないですよ?」

ついてくる事を許可した割にはどこか嫌がっている様な発言をする
表情もどこか不機嫌そうな印象を受ける。

「付いてきて欲しくなかたのならそういえばよかたね。別に単なる好奇心を満たす為なのだから」

本当を言えばどちらでも良かった。
ついていけるものならば見てみたい。
ついていけぬのならばまたそれでもいい。
絶対に見たいと言うまでの気持ちがあった訳ではなかったのでそう告げればは言葉を濁した。
どこか今日はいつもと感じが違う。(と言ってもまだ出会て二日程しか経てないが。)
嬉々と自分を観察する煌き帯びた金の瞳は今はどこか薄く濁り、光を失っている様に思える。

「(変な天使ね・・・嬉々としているかと思えば急に沈んだり。)」

人間より人間臭く無垢なその姿。
ある意味、捻くれた人間よりも判りやすく単純な様にも感じる。
そんな事を思っているとは何かを感じたように動き出した。
感じるがままに身を任せているようにも思える。
その後ろ姿を見つめながらそっとついて歩き向かった先は一軒の民家。
普通のごく一般的な家庭のようである。
が、しかし、漂う悪臭は決して一般家庭では嗅ぐ事のないものだ。

「(血生臭いね・・・)」

錆び付いた鉄がその辺に蔓延っている様な只ならぬ程の血の香り。
最も自分に馴染みのある香りの元へは迷う事なく進んでいく。
すると、そこには四肢が飛び散った凄惨な死体が転がっていた。
部屋中に飛び散る血痕は惨劇の凄さを物語る。
どこかの殺人狂にでも襲われたのだろう。
ここでは特に珍しくない事だ。

「狩る魂はこいつらか?」
「そうですよ。私は殺人による被害者の命が担当なんです。ここまで酷いのは久々ですけどね。
では、仕事をさせて頂きますけどフェイタンさんは今のままじゃ何も見えないでしょうから私の肩にでも触れてください」
「?どういう事・・・!?」

どういう事だと尋ねながらも肩に触れてみるとそこには確かな人型の何かが浮かんでいた。
それが三つあり、どうやら惨殺された家族三人の姿らしい。
しかし、その表情は想像も絶する恐怖に染まっており、見る者を皆戦慄させるものである。
驚きの余り口を噤みその様子に見入っているとが困った表情を浮かべて振り返った。

「驚きましたか?魂って言うのは死してから狩られるまで死ぬ瞬間の表情で留まるんですよ。そして、これをこうやって!」

説明しながらも手に持った鎌をその人型に振り下ろす。
すると、子供の人型らしいものが斬られたと同時に光の粒子と化して上へと昇り消え行く。
これが魂を狩るという行為らしい。

「これだけの事です。命なんて呆気ないものでしょう?」

そう言いながら最後の二つの魂を横に一閃大鎌を振るい霧散させる。
静けさを増した空間にただ吐息だけが響く。
その一連の動作を終えて漸く気付いた。
この天使は天使らしからぬ天使なのだと。
他の天使に等会った事がないから基準など判りはしないが異端だと言う事だけは判る。
自分と同じ異端者であると。

「つまらなさそうな顔ね」

呟けば血よりも紅い髪を掻き揚げて気だるそうにその場にしゃがみ込む。

「そんなの決まってるじゃないですか。元来、楽しい事にしか興味はないんですよ?。
なのに、こんなクダラナイ雑用をさせられて本当に嫌になりますよ。
まあ、その中でも貴方は中々楽しませてくれるんで今はいいですけど」

それも結局一時凌ぎだというの姿はまるで満たされぬ飢えをどうにかしようと足掻いている様にも見えた。
自分の意志などはなく、ただ淡々と決められた事をこなすだけの日々。
それがどれほどつまらないものなのかは容易に想像できる。
だから、一つ疑問を抱いたのだ。
足掻くならば何故その現状を打破しようとしないのかと。
目の前にいる天使ならば無茶苦茶な事をやらかしても不思議でない。

「つまらないならば辞めればいい。続けなければいい話ね。自分の好きな様に過ごせばいい」
「それは・・・そうですけど・・・」

まるで考えた事もなかったという口ぶりに続けて問う。

「単純に欲望に忠実になればいい。それが判らないお前はやぱりバカよ」

それだけを告げて家を後にしようと窓枠に足を掛けて飛び越えた。
その後を続けて天使が翼を広げて飛び立つ。
思案に耽りながら無言で。
真夜中の黒に紅が羽ばたき、金の瞳は戸惑いを宿していた。



単純な話を躊躇う理由等知らないが。
(知れば知る程オカシナ天使。)
(言われるまで気付かなかったこんな単純な事に。)