『つまらないならば辞めればいい。続けなければいい話ね。自分の好きな様に過ごせばいい。』

言われてみればそうだ。
私は、それだけの事を出来る力を持っている。
何せ、私は天使の中でも唯一と言って良いほど神に喧嘩を売れる天使である。

『単純に欲望に忠実になればいい。それが判らないお前はやぱりバカよ。』

本当に、気紛れでフェイタンと言う男に興味を持ち観察しようなんて思わなかったら気付かなかった馬鹿であろう。






天使を飼い慣らす方法

episode4 天使の問い掛け







私は天使の中でも異端だった。
天使の外見は大体金髪か銀髪の髪を持ち、蒼か碧の瞳を輝かせ、双翼の白く大きな翼を広げていた。
だけど、私は血の様に真っ赤な紅と月の光に似た金色の瞳、十翼の翼を持って生まれた。
完全なる異端者。
異端中の異端である私は言うまでもなく天使の中で爪弾き。
感覚にも違いがあったのか役目である死神の仕事は好きに為れず、ただ退屈な毎日を過ごすばかり。
そもそも天使にここまで感情豊な奴が居るのが珍しかった。
殆どの天使は義務、責任。
そんなものだけを抱いて徹底的に仕事をこなす神の奴隷、人形、下僕。
自分が何故そこに存在して居るのかなどの存在理念そのものがない。
同胞のそんな姿は私は吐き気がする程嫌いだった。(同胞と一括りされる事も嫌だが。)
神は神とてそれこそが正しい姿だと踏ん反り返り、自分は殆ど何もしない始末。
正直、単なるクソ爺である。

「何で私はそんな神に与えられた仕事を馬鹿正直にこなしてたのだろうか・・・?」

考えれば考える程、自分の性格上よく判らなかった。
首を捻り、手を組んで、眉根を寄せて思案するが明確なはっきりとした答えは出ず私は空中でごろんと横になる。
だが、すぐさまに飛び起きるとふよふよとフェイタンの元へと向かった。
考えた所で答えが出ないなら悩むのは無駄。
そういう考え至ったからである。
だが、確かに一つだけ理解した事がある。
今まで素直に従ってきた自分はどれ程愚かだったのだろうかという事。
自分の力に絶対の自信がある私にとって自ら神の下僕の様な真似をしていたかと思うと妙に苛立って仕方ない。
これからは、もう従わない。
誰にも絶対に。
それだけがはっきりと心の中に根付いただけでも良しとして厭な神の顔を振り払った。

「フェイタンさん。おはようございます」
「げ」

思い込んで納得してしまえばすっきりした私はするりと壁を抜けて
どうやら着替え中真っ只中だったフェイタンさんの後ろに現れる。
思いっきりフェイタンさんは厭な顔を浮かべて声を上げる。
そりゃあもう実に厭そうに眉間に皺を寄せて。
肌からですらひしひしと帰れというオーラを感じる。

「フェイタンさん。そこまで邪険にしないで下さいよ。泣いて抱きつきますよ?」
「止めろ」
「本気で厭なんですね・・・まあ、冗談ですけど」

凄まじく低い声で殺気を放ちながら言われれば抱きつく気力など奪われる。(どんだけ嫌われているのだろうか。)
第一印象がその後の印象を決めると言うがその第一印象が最悪だったからか今尚フェイタンさんの私の印象は変態、変人。
あながち間違っちゃいないが少々女としては複雑な心境だ。(でも、そんなに気にしてない。)
だが、実を言うと私の中で第一印象はかなりフェイタンさんはいい方だ。
そもそも仕事の資料でフェイタンさんを見た時、この人物は面白そうだと思った。
何よりも拷問とかが趣味な所が自分と趣味が合いそうだと思ったから観察対象に選んだのだ。
実際に会って話して見れば想像以上に面白く楽しめる人物で何より見た目が綺麗だと思った。
闇や夜をそのまま具現化した様な神秘的な美しさ。
そんな美しさの中、獣の様に鋭い瞳。
それが何よりも自分を満たした。
天界にはない美の姿だったからかは判らないが。
それに、こうやって観察対象に選ばなければ今までの愚かな自分に気付かなかっただろうし。
考えてみれば感謝するべき事が一杯ある。
私が初めて感謝を覚える人物が人間だとは思いもしなかったが。

「・・・。何、百面相してるか」
「え!?そんな顔してました?」

思考に耽っていた私はフェイタンさんの言葉に己の顔を両手で覆い隠す。
フェイタンさんは実に怪訝そうに何か汚物でも見るような目で見つめながら力強く頷いた。

「人の事をそんな酷い目で見ないで下さい。ちょっと考え事してたものですから」
「考え事・・・お前に考える事なんて思考があたのか?」

物凄い失礼な事を本気で驚いているであろう表情で言われる。
そりゃあもう瞳が零れ落ちるんじゃないかと思うぐらい見開かれて指を指されて。
私は思わず項垂れる。

「あの、本当にフェイタンさんの中で私はどういうイメージなんですか・・・?」
「変人、変態、変質者」
「ほぼ同意義ですよ。それ」

酷い。
本当に酷すぎるとふよふよと漂いながらソファに身体を降ろす。
別に落ち込んでいるわけではなくて演技だけれど。
そのソファの向かいのソファにフェイタンさんも腰掛けると物珍しそうにこちらを見つめる。

「そんなに考え事の内容気になります?」

心を読まなくても判る程の視線の意味を理解して私が訪ねるとフェイタンさんがこくりと首を縦に動かす。
単純な好奇心だろうかよく理解は出来ないが私は真剣な表情を浮かべて口を開いた。

「まあ、考えていた内容と直結する訳ではないのですが・・・フェイタンさんはどちらかと言えば生きたいですか?」

唐突過ぎる内容にフェイタンさんは目を丸くする。
しかし、すぐにまた普段の無表情に戻り淡々とその質問に答えた。

「唐突ね。まあ、死んで楽しい事がないならもう少し生きた方が面白いかもしれないね。それがどうかしたか?」
「いえ、特別それが何かと言う訳でもありませんが
フェイタンさんは普通の方とは違う空気を纏ってらっしゃるし、私に命乞いをしない人も初めてで何だか新鮮だなと思って。
後、ちょっとやりたい事もあって・・・まあ、要するにまだ考えは纏まっていないので明確な返答は出来ませんが」

独り言のようにぶつぶつとそう告げればフェイタンさんはやっぱり怪訝そうに私を見つめて結局は溜息をついて読書を始めだす。
たぶん相手にするだけ無駄だったとか思ってるんでしょうね。
確かに私自身も意味が判らないと思ってるしいいんですけど。
私は溜息を吐いて天井を見上げた。
そして、またぼんやり思考の海に沈む。
何だか言い知れない何かが胸に去来していたのだ。
それはきっと変化の兆し。
長い間止まっていた私の時間が動き出そうとしているのかもしれなかった。
自分自身でもまだ理解できぬ内から。



自分の存在意義を失いかけていた天使の変化。
(それにしても自分の信念を貫ききれて居なかったとは情けない。)
(・・・どうでもいいけどそのぶつぶつと聞えない微妙な独り言止めるね。変態天使。)