朝、目覚めると恒例となった天使の逆さ吊りがなかった。
不思議に思い身体を起こそうとすると片側に自分のものでない重圧を感じた。
横に視線をやれば静かな寝息を立てて眠る天使の姿があった。
逆さ吊り以上の驚きに思わず天使の頭を叩いた。






天使を飼い慣らす方法

episode6 眠れる天使に誘われて







隣で寝てはいるものの相も変わらず振り下ろされた手は彼女をするりと抜けてしまった。
が、起こすのには充分だったらしく眠そうな目を擦りながら此方を見る。
決して起き上がらないのはまだ眠る気でいるからであろう。

「あー・・・おはようございますーフェイタンさんーくぅ・・・・」
「挨拶して置きながら何寝てるか」

怒りを通り越して呆れが先立つ様になったフェイタンは思わず溜息を吐いた。
はそれを特に気にする様子もなく、眠そうに欠伸を噛み締めながら瞳を再度開ける。
しかし、やはり蕩けそうな程とろんとした寝ぼけ眼である。
余程眠いのだろう。

「何ですかー・・・眠いんですがー・・・・」

やや不機嫌そうに眉根を寄せ、頬を膨らます
餓鬼かと呆れた様な視線をやりつつ、自分の疑問を晴らすべく口を開く。

「それはわかたよ。それより天使にそんなに睡眠は必要か?」

人とは違いそんなに睡眠は必要ない的な事を漏らしていたのを覚えていたフェイタンは怪訝そうに問う。
すると、は「あー・・・」と気の抜けた声を出しながらぼそぼそと呟く。
顔を半分枕に埋めたままなの更に聞きづらい。

「昨日、実体化してー・・・それが久々だったもんで疲れててー・・・」

持ち前の聴力が良かったらしく何とか聞き取れたフェイタン。

「それで眠い言う訳か?」
「そうですー・・・という訳でおやすみなさい」

それだけを言うと本当によっぽど眠かったらしくまた眠りの中へと落ちていった。
フェイタンは再度寝息を立て始めたを見下ろして再度溜息を吐いた。
が、よくよく考えてみればと静かに過ごすのは初めての事である。
専ら口喧嘩か質問攻めなど話している事が多かった為だ。
紅い長い髪がパリっと糊の効いた白いシーツの上に散らばっている。
こうやって明るい場所でその髪を見てみればインクルージョンのないルビーの様である。
肌は白く淡雪の様でその肌に濃い陰影をつける長い睫に縁取られた瞳の金も思い返せば美しいものだ。
黙っていれば素晴らしく美しい芸術品の様なのだが。

「口を開けば全て損なわれて台無しな奴ね。九割方損して生きてるね」

だけど、自由奔放に好き放題という部分では自分も同じかと自分を笑う。
最初は意味の判らない頭のイっちゃってる奴だと思っていたがあれは同属嫌悪というやつかと納得する。

今となっては嫌悪はなく、呼吸するよりも楽な程面白い。

「何より拷問器具好きとは本当に変わた奴ね」

そう呟くと欠伸を一つ噛み締めて涙腺が緩む。
馬鹿に暢気な寝顔を見ていてこちらも眠くなってきたらしい。
全く悉くこの天使には振り回される。
ベッドサイドにあったメモに伝言を残すとそのまま自分も横になり瞳を閉じる。
すると、すぐに眠りに誘われ心地良い感覚に身を委ねた。



メモには彼なりの優しさの一行。
(起きたら起こすといいね。約束の拷問器具見せてやるね。)
(・・・起きてこのメモって心臓に悪いですよ。優しいフェイタンさん。怖い!)